2013年01月05日

バレンタインデー

誰かのチョコレートを蹴飛ばしてしまった。たくさんのチョコレートを貰い上機嫌で、歌を歌いながら歩いていたときのこと。からんできたのはそのチョコの持ち主ではなく、その友人だと名乗る男だ。やい、どうしてくれんだ! と責めたてる。僕は蹴飛ばしてしまったチョコレートを拾うと、黙って食べた。砂だらけだ。代わりに僕のをひとつ差し出した。彼はそれを手で払いのけると、ぐちゃぐちゃに踏み潰す。そして、静かに命令するのだ。食べろ、と。

儀式は僕のチョコレートがすっかりなくなってしまうまで続いた。
ラベル:短い話
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マゾと悪魔

ある日、とても欲深いマゾのもとに悪魔が現れた。

悪魔「ふはははは、お前の望みを何でもひとつだけ叶えてやろう」
マゾ「あ、悪魔様、ちょうどいいところに! あのう、どうか僕をイジメて……。あ、いえ、イジメないでください。って言うか。つまり、僕の望みを絶対叶えないで欲しいんです」
悪魔「なぬ!? そ、それが、いわゆるひとつのお前の望みか?」
マゾ「はい」
悪魔「うーん。そうすると、どういうことになるのだ?」
マゾ「え。そんなの、僕が知るわけないじゃないですか。でも、僕のご主人様は、僕を簡単に悦ばせてくれるんですよ。悪魔さん、それくらい出来ないんですか?」
悪魔「ぬぬ、言わせておけば! よろしい、叶えよう」
マゾ「だから、叶えちゃダメなんですってば」
悪魔「あ、そうか。俺はいったいどうすればいいんだ……」

悪魔にはサドの才能がなかった。
ラベル:短い話
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イカの足

ノアというのが イカの名前でした
目玉をさわると巻きついてきます
2本の腕と 立派な2本の足とが自慢で
僕よりも少し背が高かった

その夏知り合った女の子と海に行ったとき
彼女が面白いものを見つけた と僕を呼びました
そして 僕をびっくりさせるつもりで
あの大目玉にさわってしまったのです
ノアは大慌てで彼女に巻きつきました

イカとけんかをするときは
イカに巻かれると思ってはいけません
イカを巻く くらいの気持ちが大切です

たくさん水を飲んだけれど
彼女は助かりました
でも僕の左足はヒザから先がどこかに行ってしまって・・・

病院でみてくれた先生が腕組みをしています
やっと何かを言いかけたとき
窓からノアが入ってきて言いました
先生 俺の足を使ってくれ

僕が断わるのも聞かずノアは
自分で自分の足を切り落としました
先生はノアから足を受け取ると
早速 手術を始めました

先生は名人でした
見事な左足が
―爪がないのを除けばほとんど完璧です―
僕に戻りました
神業です いいえ職人技でした
実は先生 副業におすし屋さんもしていたのです

となりで目を覚ました彼女は
僕の新しい左足を見るなり また気を失いました

ノアはまだ診察室にいました
ゆかでぐったりしています
先生が留守みたいなので
―たぶん おすし屋さんの仕事だと思います―
僕もゆかに寝そべって
少しの間だけ 僕はノアと話をしました

イカの足ってふつう10本だよね
  3本の奴もいるさ
足 痛まない?
  そっちこそ具合は?

       ・
       ・
       ・

砂浜まで戻ってきた ノアと僕は
最後に力いっぱい握手をして別れました
ノアの右手は
けんかしたときに思ったのより ずっとやわらかでした

ノアのことが懐かしくなると
僕はときどき左足と握手をします
ラベル:短い話
posted by みずすまし at 20:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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